音をキレイに録るマイク選びと実践編
テレビ放送で定番のマイク・ソニー UWPシリーズはあくまで“プロ用”
ソニー UWP-D21
TVなどプロの現場で定番になっているというソニーのUWPシリーズ。UWP-D21はボディーパックトランスミッターとポータブルダイバーシティーチューナーのセット。
・ これさえ持っていれば現場で素人扱いされない
・ 普通の現場で電波が届かないことはまずない
・ 送信機のバッテリー残量が手元(カメラ位置)で分からない
・ バッテリー運用時間が3〜6時間程度(電池の種類に依存)
・ 送信機が重たいので演者への取り付けに制限がある
・ マイクが有線で準備・撤収に手間がかかる
・ マイクケーブルの断線事故が少なくない
・ 会場マイクとの混信がある
マイク内蔵型送信機&ノイズリダクションが主流になったデジタル無線マイク
ワンオペの“答え”となるデジタル無線マイク
ここからは実際の機材についてお話しします。まず、業界の常識として、プロが標準的に使っているのはソニーのUWPシリーズです。何世代にもわたってロングセラーのマイクで、だいたいTVの現場ではこれしか使っていないと思います。それぐらい安定して良い音が撮れるから定番になるわけですね。
プロとしていろんな現場に行ったときにこのマイクを持っていれば素人扱いされません(笑)。でも、もし受信機と送信機のセットで2波そろえようとすると17万円ぐらい…少し高いですね。あと重量がけっこうあって、ワンマンでオペレーションするときには少し扱いづらいかもしれません。いろいろなメリットとデメリットがありますが、結局はプロ用のマイクである、と考えています。
では、どんなマイクを導入すれば良いのか。僕なりの答えは2.4GHz帯のデジタル無線マイクです。最近の進化が著しくて、マイク内蔵型送信機が主流になっていますが、とにかく軽量で、面倒なケーブル処理が不要なのがありがたい。バッテリーが8時間程度持つので長い収録でも安心、受信機の手元でレベル調整できるのもメリットです。
さらにノイズリダクションの機能がポイントです。たとえば自動車の走行中でも明瞭な声になるので、現場の状況によっては重宝します。だた、マイク側にノイズリダクションのオン・オフのボタンがあるタイプもあって、意図せずノイズリダクションが入ってしまうこともあるので注意が必要です。できれば受信機側でオン・オフを切り替えられる機種を選んだほうが安全かもしれません。
・ 圧倒的に小さく軽く、ケーブルレス運用できる
・ チャンネル設定の必要がない(混信しない)
・ 電源を入れればすぐに使える
・ バッテリー残量がひと目で分かり、充電も簡単
・ TVなどでの実績が乏しい(音声端子がピンジャックなど、仕様が貧弱)
・ 製品によって遅延が発生する場合がある
・ アナログマイクと混ぜて使いにくい(エコーがかかる)
・ 違う製品を混ぜるとエコーがかかる
ラベリアマイクの取り付け位置と演者人数による注意点
左写真①の位置が一番自然な声。近づけるとより主観的な声(耳元で喋っている感じ)になり、低音が強くなる。また②の位置なら演者が顔の向きを変えた時に影響が少ない。
左写真②や③など口元へ近づくほど、演者が顔の向きを変えた時に音質の変化が生じる。パチンコ店などではヘッドセットが必要で、その場合は口から3〜5cmが最適な声になる。
演者ひとりの場合
心臓の位置でなるべく体の中心に取り付ける。環境音の大きさに応じて、マイク位置を口元へ近づける。
演者ふたりの場合
両者が向きあって対談するだけなら、演者ひとりの設置と同じ。しかし、ふたりの距離が近いと、ダブルトーク(エコー)がかかる。その場合は、ふたりの距離を離すか、マイクを口元へ近づける。
演者3人以上の場合
多チャンネルミキサーが必要になり、ワンオペの現場の場合は運用が難しい(専門家を呼ぶほうが安全)。
シチュエーションによってマイク位置を調整する
ラベリアマイクの取り付け位置には注意が必要です。このマイクの位置がめちゃくちゃな人が多くて、見ていて悲しくなってしまうことも…(笑)。襟元に付ける人も多いんですけど、これは不自然です。基本は心臓の高さか、それよりも少しだけ上が正しい位置だと思ってください。
マイクは近づければ良い音になるわけではないので、ベストな位置を探っていく必要があります。口元に近づけるとより主観的な声になりますが、外ロケでの対話シーンで耳元で喋っているような主観的な声だと気持ち悪いですよね。ここがラベリアマイクの難しいところで、自然な位置になるように現場ごとの調整が鍵になります。
マイク位置を心臓の近くにするのは、口元からの距離を25cmぐらいにすることで、演者が顔の向きを変えたときに影響が少なくなるからです。音というのは距離の二乗に反比例して音質が変わっていきます。ぱっと見でほんの少しだけマイクとの距離が変わっただけで、音質には大きな影響がある、と覚えておいてください。襟元のように口からマイクまでの距離が近いと、その影響を受けやすいということですね。
ただ、背景音との分離というのが重要というお話をしましたが、周囲がうるさい場合には、口元へ近づける必要があります。当然、マイクを離すと人の声が小さくなって背景音との分離ができませんので、明瞭さが失われてしまいます。その場合にはマイクを襟元などに近づけますが、その分だけ演者の首振りによって音質変化が出てしまう…このバランスが難しいところです。
現場でのレベル調整で意識すべきすること
-12dBを超えて-6dBに入るように調整する
では、録音時のレベル調整はどのようにすればいいか。かつては「-20dB」が基準になっていましたが、最近は波形のピークを見るのが一般的で、基準は「-12dB」になっています。編集ソフトのボリュームのところに一本線が表示されていると思いますが、各社とも-12dBになっているはずです。TVではこの-12dBを超えないように作るのが基本で、YouTubeは-12dBを超えて-6dBに入るようにレベル調整をするのがベターになっています。-12dBはピークメーターで言えば黄色で表示されるライン、-6dBは赤色で表示されるラインです。
なぜマイナスの値にするかというと、レベルが大きすぎると音割れして救えないから。TVの現場で小さめに録音しているのは事故を回避するためで、もし-20dBで録ってしまっても編集で救えることが多い、ということですね。とはいえレベル調整を間違えて音が小さすぎると、編集時にレベル補正しても「サー」というノイズが混じってきます。この音はノイズリダクションで消すことができますが、音が痩せてしまうので注意しましょう。
簡単にハイレベルな録音・整音をする方法
無線マイクの場合、カメラの自己ノイズを減らすためには、「マイク大」→「カメラ小」というのがボリューム調整の基本です。マイク(受信機)側はS/N比が高いものがほとんどですが、カメラ自体はそこまで良い音響構造を積んでないことが多いからですね。
DJI Mic 2のように無線マイク側に「マイクゲイン」がある場合、これはプロ用の設定なのでめんどくさい…。ここまで気が回ればという前提ですが、-12dBラインを目安に、基本どおりに送受信機だけで設定すればOKです。逆に無線マイクにレベルメーターがない場合、出力ボリュームとカメラのマイクボリュームだけで調整してください。どうしても音割れするときは、マイクを遠ざけて取り付ける必要があります。
編集・整音における注意点として、僕は基本的に「声の分離」と「ノーマライズ」を同時に使います。声の分離はプロセス(ノイズ学習)型のノイズリダクションで、ノーマライズは聞きやすい音にする処理(専用エフェクトによる)です。つまり最大音圧を規定レベル内に収めつつ、小さい声をゲインアップしましょう、と。
僕は編集の効率性からFinal Cut Proを使っていますが、初期値のままで「ラウドネス」をかけて、あとは微調整するだけです。ナチュラルさは若干失われるのでやりすぎ注意ですが、簡単に明瞭さを上げることができるので頭の片隅に置いておくと良いでしょう。「声の分離」の初期値は50%ですが、これはやりすぎ。普段24%ぐらいで使うことが多いです。
無線マイクの設定 (ステレオモード/モノラルモード/セーフティーモード)
ステレオモード
ふたつのマイクを同時に接続。編集時にそれぞれのマイクの音量を変えられるという利点があり、環境ノイズを軽減できる。また、編集時に左右を別々に整音することもできる。
モノラルモード
マイクをひとつだけ使うときに選択する。ふたつのマイクを使うと、自動的に音がミックスされるため、配信の現場では便利かもしれない。
セーフティーモード
片方に通常の音量、もう一方に小さな音量で収録できる。小声の演者と大声を出す演者が同時にいるときなどに重宝する設定。
送信機の内部レコーディングは必要か?
僕は送信機の内部レコーディングはほぼしていません。というのも、いまのデジタルマイクは電波が途切れることがないからです。
初代Wireless GoやHollyland Lark 150といった第1世代のマイクは、2mぐらいしか離れていなくても声がぶつぶつ切れることがありました。これにはとても悩まされていたんですが、今回紹介しているDJI Mic 2やHollyland Lark M2などの第2世代のマイクは電波がほとんど途切れません。送信機と受信機が30〜50m離れても普通に使えますね。
なので、内部レコーディングは本当に事故れないとき、一発勝負のイベントや演奏会などでは使ったほうがいいかもしれませんが、ほぼほぼ必要性を感じていない、というのがプロの本音です。ただ、ヘッドホンで聞きながら録音できない場合。そのときは内部レコーディングをしていたほうがベターだと思います。
ピンマイク(ケーブル接続)外部マイク端子は必要か?
マイク内蔵送信機が主流の時代でもピンマイクが必要になるケースがたまにあるんです。本当にうるさい現場ではパーマセルで演者の顔に直接貼り付けることもあるので、外部マイク端子があることで対応力がアップします。あと、より指向性の高いピンマイクを使える、というのも外部マイク端子があることの利点です。DJI Mic 2やソニー ECM-W3のようにプラグインパワー対応の外部マイク端子があれば、ショットガンマイク(プラグインパワー仕様・バッテリー内蔵式)を遠隔で使えるので、個人的には重宝しています。
桜風さんのおすすめマイクの比較と特徴
DJI Mic 2
特徴
・ 受信機側でレベル調整可能(送信機バッテリー残量や各種設定も可能)
・ 内部32bitフロート録音(ライブ収録で重宝)
・ 多彩な設定(プロ向け)
・ 高度なノイズリダクション
・ ほぼ途切れない電波
・ デジタル接続対応(ただし、USBオーディオ入力対応のカメラのみで現状ではPCとアクションカムくらい)
・ DJI Osmo Pocket 3などDJIのアクションカムには受信機なしで接続可能
外部入力
あり
価格(税込)
35,530円(充電ケース付きは52,800円)
Hollyland Lark M2
特徴
・ 受信機側でレベル調整可能
・24bitリニア処理(ダイナミックレンジが広い)
・高度なノイズリダクション
・ほぼ途切れない電波
・デジタル接続対応
(ただし、USBオーディオ入力対応のカメラのみで現状ではPCとアクションカムくらい)
・デジタル受信機が非常に小さい
外部入力
なし
価格(税込)
「Combo Ver.」28,380円
「Camera Ver.」24,970円
「Mobile Lightning Ver.」23,650円
「Mobile USB-C Ver.」22,110円
ソニー ECM-W3
特徴
・ 設定がスライドスイッチのみで失敗が少なく、設定値が視認しやすい(ただし、レベル調整は送信機側)
・ カメラ接続が16bitリニア処理(ダイナミックレンジが狭い)
・ 高度なノイズリダクション
・ デジタル接続対応(ただし、ダイレクト接続はソニー製のカメラのみ。USBオーディオ出力にも可能)
・ 高度な内部レベル調整機能が搭載
・ レベルオーバーで音割れがほぼ分からない
・ ノイズリダクションがよく効く
・ 分からなければATT(アッテネーター)を「-10dB」にしておけば大丈夫
外部入力
あり
価格(税込)
63,800円
無線マイクのノイズダクション機能は使うべきか?
画と混ぜたときのことを考えて使うのがベター
最近の無線マイクはノイズダクション機能が優秀ですね。もちろん静かなところで録った音声と比べると質は落ちていますが、映像と混ぜて見たときに「画的にうるさい場所のはずなのに声が明瞭に聞こえる」ので、驚くほど良い音に聞こえる…これが映像の音の不思議で面白いところです。編集ソフトのノイズリダクションのほうが効きも良いですし、細かなパラメーター調整ができますが、撮って出しのYouTubeなどには便利ですよね。
もうひとつ、編集ソフトでノイズリダクションが効くかどうかのテストとして使用するパターンもあります。リハの時点でマイクのノイズリダクションを「オン」にして一度聞いてみる。そうすることで「ここのノイズはあとからでも引くことができるノイズなんだ」と確認できるわけです。本番では「オフ」で録って後で編集ソフトでキレイにしよう、もしくはこの声なら明瞭に聞こえるから本番で「オン」にして撮って出ししようと判断できるんです。
・ YouTubeなどの撮って出しに便利で、電車や自動車の中でも普通の声で喋れる(ただし、編集ソフトでも同様の効果は得られる)
・ ノイズリダクションで残響もある程度は軽減できるため、マイクからの距離を離せる
・ マイクによってはレベル調整の代わりになる
・ 声質が下がり、不自然な声になりがち
・ 特に声が小さいと極端に音質が下がる
・ マイクの距離を適正化しないとダメ
オムニ・ステレオでリッチなサウンドに
波の音や鳥のさえずりなどの環境音を撮りたい場合のテクニックを紹介します。カメラのマイクだけで撮ると音が貧相になりがちですが、ふたつのマイク(送信機)を使ってオムニ・ステレオにすれば環境音もリッチに撮ることができます。通常のステレオ音は、カーディオイド(単一指向性・半球型指向)で左右の音を切り分けるためのもの。一方、オムニとは無指向性という意味ですが、音の定位(位置の特定)は不明瞭だけど左右の音量差と遅延でステレオ音になる…と。
本来であればステレオマイクが必要ですが、代替のとしてのやり方は簡単、ふたつのマイクを2m以上離して録音するだけです。ふたつのマイクで録った定位がハッキリしない音というのを逆手にとって、演者のセリフを邪魔しないリッチな環境音になります。ECM-W3をふたつ使って作例を撮ってみましたが、周辺全体の音が録れていて迫力のある環境になっていると思います。
この手法は映画の背景音に使われますが、たとえばプロモーション映像のオープニングなど、他のシーンよりも環境音にこだわりたいときは、ふたつの無線マイクを離して置くだけで印象的な音づくりができるので、ぜひ試してみたください。
改めて結論! このシチュエーションにはこのマイク
DJI Mic 2、Hollyland Lark M2、 ソニー ECM-W3はこんな人におすすめ
音で“表現”したい人には応用範囲が広くて、受信機側でいろんな設定ができるDJI Mic 2がおすすめです。普通のインタビュー撮影ではほとんど使わないかもしれませんが、32bitフロート録音もできるので、ライブなど音量の大小が激しいものを録音する人は恩恵が大きいかもしれません。ノイズリダクションの機能は「中」ぐらいで最高とは言えません。自動車の走行音のように分かりやすいノイズにはよく効きますが、微妙なノイズのときはむしろ声の質が落ちてしまうことが多いですね。電波は本当に強くてとにかく途切れません。
Hollyland Lark M2も音質はいいです。超小型かつマグネットやクリップ、ネックレスのように付け方の選択肢もたくさんあるのがうれしいですね。ノイズリダクションは高度ですが、若干モゴモゴして音が痩せる印象があります。他のマイクに比べてUSB接続用の受信機がビックリするぐらい小さいのも特徴です。PCはもちろん、スマホやアクションカムにも違和感なく取り付けられます。ただ外部マイクの端子はないので、拡張性を求める人には向かないかもしれません。
ソニー ECM-W3は電波だけで見れば第1世代と第2世代の中間ぐらいの印象です。ただ、レベル調整を間違えても“使える音”で録れるので失敗することが少ない。音に関して現場で余計なことを考えたくない人はこのマイクを使うと良いと思います。細かいですが、設定の切り替えがスライド式のアナログスイッチなのもうれしいポイント。目視できるので、間違えた設定になってしまっていた…という失敗も防ぐことができます。
ソニー製マイクのノイズリダクションは本当に優れていて、今回のテーマとはズレますが、もしドキュメンタリーなどの撮影を考えている人はソニー ECM-M1というショットガンマイクを1本持っておけば、いろんな状況に対応できるので便利です。
まとめ的に改めてお伝えすると、「とりあえず万能なマイクでいろいろやりたい人」はDJI Mic 2、「多人数の対談をコスパよく録りたい人」はHollyland Lark M2、「現場で失敗を減らしたい人」はソニー ECM-W3というのが、いま現在の僕の結論です。